2004.12.17
夕方、道路を歩いていると、一台のタクシーに呼び止められた。タクシーを呼び止めたことなら何度もあるが、タクシーに呼び止められるのは初めてのことである。ところが、その後にもっと信じ難いことが起きた。なんと道を尋ねられたのである。タクシーの運転手なんぞというのは特殊スキルで、たとえ網走から乗車したとしても「○○町の自宅まで」と言えばアイヨっと返事をする間もあらばこそ、威勢よく発進したかと思えばウトウトするかしないかのうちにふと気がつけば見慣れた町並み、そうそう、次の角を左。あ、ここでいいです。という程度のやりとりで済んでしまうほどに、彼らは道路には精通しているものと思っていたもので、意外といえばこれほど意外なことも他になかった。
聞けば梅田あたりからこの辺まで客を運んだのはいいが、梅田へ帰る道筋がわからず困っていたという。梅田までとなると不案内だが、阪神高速に乗ってしまえば何とかなるというから、別段急ぎの用事があるわけでもなし、いつも通る道順を話しておいた。あとは彼が無事に帰り着けたことを祈るばかりである。
夕食時に相方に「被告と被告人はどう違うのか」と訊かれたので、被告は民事で被告人は刑事であると通り一遍の説明をしたら、そんなことはわかっていると怒られた。そうではなく、何故民事では被告で、刑事になると被告人になるのか、その由来を知りたかったらしい。左様なことは聞いたこともないし、考えたこともない。疑問に思ったことすらないから、調べたことも一度もない。
とりあえず手近なところでググってみたりなどするが、やはり通り一遍のことしか書いておらず、この記事を書いている段階では由来に言及したページは見当たらなかった。そもそもこういう用語は、法に定められているから使っているという程度のことで、リンゴはリンゴ、ミカンはミカンと名前が付いているのと同様である。当然、法律用語にしろリンゴにしろミカンにしろ、故事来歴はあるはずだが、日常会話においてリンゴの語源に思いを馳せることが皆無に近いように、法律家や法律学生はいちいちそんなことを気にしないのである。
まあ、ひょっとしたら講義のときにちらっとでも触れられることがあるのかもしれないが、少なくともぼくは耳にした覚えがない。
とりあえずどちらがどちらなのかをきちんと覚えるという程度で良いのであれば、民事の原告・被告は単に裁判上の立場を指しているだけであるのに対して、刑事でいう被告人はいわば代名詞に近い用語であると考えておけば良かろう──もちろん被告人も立場を指す語なのであるが、刑事裁判は民事裁判と比べて登場人物が多く、「訴える側」「訴えられる側」程度の分類では逆にややこしくなってしまうので、用語の範囲を民事のものよりも限定しているように思われる。従って、より代名詞的性格が強まっていると考えられるのである。
とまあ、ごちゃごちゃと書いたが、あくまでこれは白林檎の見解に過ぎないので、あまり信用しない方がよろしい。
マスコミはこの辺をかなりテキトーに扱っており、善良な市民が混乱する原因となっている。刑事裁判にかけられている人間を指して○○被告などというのは不正確極まりないので、あれは止めた方が良い。自分たちの放送している情報は大して正確じゃありませんよ、と自ら吐露しているようなものだ。